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東京地方裁判所 平成2年(ワ)15908号 判決 1991年8月29日

原告

株式会社初穂

右代表者代表取締役

豊島幹男

右訴訟代理人弁護士

若梅明

大橋毅

松戸勉

被告

株式会社治

右代表者代表取締役

ショベイリ・セイエド・アハマド

中山公太郎

右訴訟代理人弁護士

板垣範之

主文

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の各土地部分を明け渡せ。

2  被告は、原告に対し、六〇一万二九二〇円及びこれに対する平成二年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  この判決は、第1項及び第2項について仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地を明け渡せ。

2  被告は、原告に対し、六〇六万四〇〇〇円及びこれに対する平成二年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第1、2項について仮執行宣言の申立て。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録の冒頭に記載の土地(以下「本件土地」という。)を駐車場用地としてその用に供していたところ、平成元年七月一〇日、被告に対し、本件土地のうち別紙図面記載の2ないし9、11ないし18の各区画(以下「本件各区画」という。)をいずれも左記約定によりそれぞれ貸し渡した(以下、これら各区画の賃貸借契約を総称して「本件各賃貸借」という。)。

① 使用目的 被告の所有する自動車の駐車

② 契約期間 平成元年七月一〇日から同年九月九日まで。

ただし、期間満了の一か月前までに原・被告のいずれからも解約の意思表示がないときは、二か月間期間を延長し、以後これに準ずる。

③ 期間内解約 原告又は被告は、契約期間中、相手方に一か月前の予告をもって、本契約を解除することができる。

原告が、本件土地について駐車場用地としての使用を廃止する場合は、本契約を解除することができる。

④ 駐車場使用料 駐車一区画当たり二万五〇〇〇円の一六区画分合計四〇万円。

2  原告は、平成二年九月一〇日頃、被告に対し、同年一〇月三一日をもって本件土地について駐車場使用を廃止するので同日限り本件各賃貸借を解除する旨通知し、同日までに本件各区画を明渡すよう請求した。

3  原告側は、右通知後、本件各区画の明渡しが円滑に実現されるよう被告と交渉を重ねたが、被告は平成二年一〇月三一日になっても明渡しをしなかった。

そこで、原告は、平成二年一一月一日、当庁に対し、本件各区画の明渡断行仮処分の申立て(当庁平成二年(ヨ)第五〇五六号仮処分申請事件)をし、同月一四日債務者たる被告の審尋を経た後、同月一五日、債務者(被告)は本件各区画を仮に明渡せとの仮処分決定がなされた。

4(一)  原告は、平成二年一一月一五日、当庁執行官に対し、右仮処分決定に基づく明渡執行の申立てをし、執行官により執行予定日が同月二一日と指定された。

本件各区画に平成二年一一月一五日頃駐車していた車両は、一〇数台であり、未登録のものでそのままでは道路上を走行できず、施錠されていたことから、本件各区画からそれら車両を搬出するについては、多数の補助者、解錠技術者、一〇数両の車両運搬車等が必要となり、原告は、これら要員を執行当日に備えて確保した。

平成二年一一月二〇日午前一一時頃、執行官は、本件土地に赴き、本件各区画に被告車両計一五台との被告の占有状況を確認し、前記仮処分決定に基づき、本件各区画の占有移転を禁止する等の公示をし、そこに居た被告社員に対し、右決定の執行に着手し、翌二一日には同各区画における駐車車両を搬出する旨告知した。

右同月二一日、被告から何の連絡もなかったので、約三〇名の執行補助者、五名の解錠技術者が本件土地に集合し、一〇数台の車両積載車が積載に必要な器具等を準備して本件土地附近に待機した。ところが、被告は、二一日の早朝までに車両を搬出しており、結局、同日は、被告が本件土地に残していた古タイヤ等を搬出して執行は終った。

(二)  原告は、平成二年一一月一五日、五十嵐金生との間に、右執行に要する補助業務について、代金六〇八万四〇〇〇円とする請負契約を締結し、同人は、解錠技術者、車両移動業者らの手配をした。この内訳は、執行補助者三〇人(一人当たり日当一〇万円)、解錠技術者五人(一人当たり日当八万円)、セイフティーローダー車両搭載車一四台(一台当たり使用料一三万円)、同車両搭載車ロールスロイス用一台(使用料一五万)、レッカー車車両移動用車両一台(使用料八万円)、コンパネ三〇枚(単価四〇〇〇円)、ジャッキ等運搬工具一二個(使用単価七〇〇〇円)、材料等運搬車一台(使用料三万円)及び雑費四〇万円というものであった。このうち、執行補助者の日当については、明渡執行について債務者の実力による妨害の伴うおそれがあり、そのような危険を覚悟せざるを得ない執行補助者の日当は相当程度高くならざるをえず、また、原告が準備した右車両運搬車は、その車両の荷台に自動車を載せてしまうセイフティローダー車両搭載車であったが、これは、被告の駐車車両は、輸入外国車であり販売前はナンバープレートもなく、自走させることができず、また、被告の駐車車両は、メルセデスベンツ等の輸入高級車であり、搬送中の損傷による高額の賠償負担も懸念されたため、搬送車両の保全に万全を期して、レッカー車により牽引する方法も控えたことによるものである。

原告は、同月二一日の執行当日、右補助業務に要する人員、機材等を待機させたが、執行前日までの状況から右請負契約の解約は不可能であった。そして、原告は、同月二一日、右五十嵐に対し、右請負代金等として五九六万四〇〇〇円を支払った。この内訳は、右請負代金の内訳のうち、セイフティーローダー車両搭載車一四台(一台当たり使用料一二万円)及び材料など運搬車二台(使用料三万円)とする変更のあった他は、同内訳のとおりであった。

また、原告は、右執行について、裁判所に対し、執行費用予納金として一〇万円を納付した。

そこで、原告は、被告の本件各区画明渡しの不履行により合計六〇六万四〇〇〇円の損害を被ったので、被告はこれを賠償する義務がある。

5  よって、原告は、被告に対し、本件各区画賃貸借契約の終了に基づき、本件各区画の明け渡し並びに同明渡しの遅滞による損害として六〇六万四〇〇〇円の損害金及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成二年一二月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、本件土地中の本件各区画について、駐車場として使用する旨の賃貸借契約がそれぞれ締結されたことを認める

2  請求原因2を認める。

3  請求原因3を認める

4(一)  請求原因4(一)のうち、原告が主張のとおり仮処分決定に基づく明渡執行の申立てをしたこと、平成二年一一月二〇日午前一一時頃、執行官が、本件土地に赴き、本件各区画の占有移転を禁止する等の公示をし、そこに居た被告社員に対し、同各区画における駐車車両を搬出するよう催告したこと、被告において、同月二一日の早朝までに本件土地から駐車車両を搬出したことを認め、本件土地に平成二年一一月一五日ころ駐車していた車両は一〇数台であること、右社員において同月二一日に明渡執行に着手する旨告知されたことを否認し、その余の事実は不知。

(二)  請求原因4(二)の事実は不知。

5  請求原因5を争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1のうち、原・被告の間に、平成元年七月一〇日、本件各区画を駐車場として使用する旨の各賃貸借契約が締結されたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告の間には、本件土地について、建物所有を目的としない請求原因1の①ないし④のとおりの約定の土地賃貸借契約が締結されたことを認めることができる。

二そこで、本件各賃貸借契約の終了について検討する。

請求原因2は、当事者間に争いがない。

すると、本件各賃貸借契約の約定により、請求原因2のとおりの各解約申入れにより、本件各賃貸借契約は、平成二年一〇月三一日限りいずれも終了したものというべきである。

三次いで、損害賠償請求について検討する。

1  請求原因3の事実、請求原因4(一)のうち、原告が主張のとおり仮処分決定に基づく明渡執行の申立てをしたこと、平成二年一一月二〇日午後一一時頃、執行官が、本件土地に赴き、本件各区画の占有移転を禁止する等の公示をし、そこに居た被告社員に対し、同各区画における駐車車両を搬出するよう催告したことは、当事者間に争いがない。

2  右1の争いのない事実、<書証番号略>証人若梅明の証言及び<書証番号略>同証言、証人伊藤敬司の証言(ただし、後記認定に反する部分を除く。)並びに弁護の全趣旨によれば、次のとおりの事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、被告に対し駐車場として使用する目的で本件各区画を賃貸していたところ、平成二年九月一七日、株式会社美アイムとの間に、本件土地について、売買契約を締結し、この契約には、同年一一月末日までに駐車場としての使用車両を立退かせることとし、同日までの立退きができない場合は、売主たる原告は、買主たる右会社から売買残代金一億円の支払いを受けることができない旨の特約が付されていた。原告は、請求原因2のとおり書面(<書証番号略>)をもって本件各賃貸借の解約通知をし、原告側管理人において明渡交渉をしていたところ、平成二年一〇月二六日頃になっても被告からの任意の明渡しの態度が示されず、催告していた本件各区画の明渡期限である同年一〇月三一日が経過したため、同年一一月一日、請求原因3のとおりの仮処分申請に及んだ。

右仮処分手続においては、同月一四日、原告側の代理人弁護士二名並びに被告代表者と被告社員の伊藤敬司らが当庁に出頭して、それぞれ審尋がなされ、その後、右原告代理人において、被告代表者に対し、任意の明渡しについての話がなされ、同日後刻、更に電話による話もされたが、右明渡しについての補償額の点で折り合いがつかず、物別れに終った。

(二)  平成二年一一月一五日、被告は原告に対し本件各区画を仮に明渡せとの仮処分決定がなされ、原告は、同決定による執行について、執行官との執行実施の調整をし、同執行に要する補助、機材等について、執行補助に詳しい五十嵐金生に本件各区画からの車両搬出について請求原因4(二)のとおりの見積をしてもらい、これら要員、機材確保についてその依頼をした。

執行官は、同月二〇日、右仮処分決定による執行に着手し、原告代理人及び右五十嵐ら立合いのもと本件土地に赴き、本件各区画に道路運送車両法所定の自動車登録番号標の封印取付けがなされていない被告による施錠がされている販売用輸入自動車(ベンツ社製、ロールスロイス社製等)一五台及び被告運送用車両一台を確認し、本件各区画を被告の占有を解き執行官保管とし、右各車両の搬出は翌二一日とすることとして、右執行官保管とする旨の公示をし、そして、たまたま、同場所に来た被告社員に対し右執行の趣旨を告げ、右駐車車両も搬出を催告した。

被告は、右公示と連絡から、翌二一日朝までに、右各車両を、すでに近接した所に手配していた代替駐車場に移動した。

翌二一日、執行官は本件土地に、前記車両搬出のため赴き、原告は、執行補助者及び機材を請求原因4(二)のとおり準備、待機させたところ、被告駐車車両は無く、タイヤ、消化器等約九二点ほどの遺留品を保管し、原告に本件各区画を引渡して、執行は完了した。そして、原告は、右五十嵐に対し、その委託にかかる右人員、機材の準備、待機等の費用代金として五九六万四〇〇〇円を支払った。

また、原告は、右執行について一〇万円を予納し、内四万八九二〇円が執行費用とされた。

3 右認定の事実によれば、原告は、本件各賃貸借が有効に解約されて終了した後、被告の任意の明渡し履行を求めて交渉を重ねたが、被告からの明確な明渡しの意向は提示されないままであったため、右明渡しの仮処分の申立てに及び、その保全手続において、裁判所において原・被告双方の審尋がなされ、右審尋期日終了後も、原告から任意の明渡しによる解決が図られていたところ、原・被告において合意に至らず、裁判所において、適法な本件土地明渡しの仮処分決定がなされ、原告はこの決定による執行の申立てをし、その執行に備えて、執行補助者、執行機材を準備したこと、執行官は、平成二年一一月二〇日、右執行に着手し、本件各区画を執行官保管とする旨公示し、被告社員に対し駐車車両の搬出を催告したこと、同日の本件各区画における駐車車両の種類、台数、状況からして、原告による執行補助の規模、用意は相当であり、無用、過大なものであるとはいえず、この規模を用意するための五十嵐金生との契約により、その人員、機材が動員され、その具体的な履行に及ばなかったものの、原告の右認定のとおりの代金等支払いがなされ、この支払金額は、同契約における原告の債務としてその負担は相当、止むを得ないものであったこと、を認定、判断できるものである。

なお、被告は、本件土地を平成二年一一月末日までに明渡せばよいことを原告において了解していたと思い、平成二年一一月二〇日の執行官の公示及び催告により、直ちに、本件土地から駐車車両を搬出し、同月二三日に初めて本件土地の明渡しを命ずる仮処分決定の送達をうけたものであり、原告の右出費については、被告の責めに帰すべき事由はなく、損害賠償の義務はない旨主張するところ、前記認定の仮処分の経過に照らし、原告において平成二年一一月末日まで明渡しを猶予し、また、被告において、右猶予がなされたものと思うのが相当というべき事実を認めることはできず、平成二年一一月二〇日における駐車車両の被告による搬出も、執行官若しくは原告側には何等の連絡もされないままであり、同日において、執行官が本件土地の現況を視察した当時の状況から、翌二一日、その状況に対応すべく執行準備をして臨んだ原告に対し、被告の任意の履行が先行してなされたので原告の出費が無用、無関係のものであるとして対抗することはできないものというべきである。

また、仮処分決定は、債務者(被告)に送達される前であっても執行することができ(本件執行当時における旧民事執行法一八〇条三項、一七四条三項、民事保全法四三条三項参照。)、また、前記認定のとおり適法、妥当に発せられた仮処分決定の手続を見るに、明渡し遅滞中にある被告に対し、原告による本件執行が被告の予想し得ない全く不意の執行ということもできない。

4  そこで、原告は、被告の明渡しの遅滞により、右執行費用四万八九二〇円並びに右執行に際しそれに伴う費用相当額として五九六万四〇〇〇円の出費を余儀なくされたものであり、被告はこの合計六〇一万二九二〇円について賠償すべき義務があるものである。

四以上の次第により、原告の本訴各請求は、本件土地の明渡しの請求については理由があり、また、損害金の請求は右三4の限度で理由があるので、右明渡し請求を認容すると共に、右損害金の請求を右限度で認容して、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条ただし書、仮執行宣言について、同法一九六条、を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小原春夫)

別紙<省略>

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